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入学定員や収容定員に係る私立大学職員として理解しておくこと~定員の厳格化と考え方~

※本記事は2015年に書きましたが、2020年2月に内容を更新しました。

大学の規模というと何をイメージするでしょうか?学部数でしょうか?それとも校地校舎でしょうか?それとも学生数でしょうか?

大学の規模というと、一般的には学生数で小規模大学、中規模大学、大規模大学と分ける事が多いです。

規模 学生数
小規模大学 4000人未満
中規模大学 4000人~8000人未満
大規模大学 8000人以上

さて、この学生数に関して大学には「定員」があります。「定員」という意味は、規則等に定められた人数ですが、大学には入学定員と収容定員が一般的であろうと思います。

○入学定員⇒入学することができる人数

○収容定員⇒学科又は課程を単位とし、学部ごとに学則で定めるもの。(大学設置基準第18条) 

収容定員は、入学定員×修業年限(卒業・修了するために学校に在学する必要な年限、例えば4年や6年等)ではなく、編入学定員等もありますので○○学部の入学定員が100名、3年次編入学定員10名の場合は、収容定員は420名となります。(100名×4年+10名×2年)

<参考 大学設置基準第18条>

(収容定員)
第十八条  収容定員は、学科又は課程を単位とし、学部ごとに学則で定めるものとする。この場合において、第二十六条の規定による昼夜開講制を実施するときはこれに係る収容定員を、第五十七条の規定により外国に学部、学科その他の組織を設けるときはこれに係る収容定員を、編入学定員を設けるときは入学定員及び編入学定員を、それぞれ明示するものとする。
2  収容定員は、教員組織、校地、校舎等の施設、設備その他の教育上の諸条件を総合的に考慮して定めるものとする。
3  大学は、教育にふさわしい環境の確保のため、在学する学生の数を収容定員に基づき適正に管理するものとする。

1.定員管理の通知について

さて本題です。2015年当時は大学の定員管理に関わるニュースを目にする事が多かったです。また受験関連でも、有名大規模大学の競争が激しくなるのではと言われているとも聞きます。また2015年9月18日に次のような通知もなされました。

大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示の施行について(通知):文部科学省

端的に言えば、「今後は平均入学定員超過率の条件を厳しくします」という事です。今までは入学定員の1.3倍を超えないようにしていれば良かったのが、場合によっては1.05倍というのは4000人以上の中規模大規模大学を持つ学校法人(経営サイド)や大学執行部・募集担当者には頭の痛いところでしょう。

例えばさっきの大学の例(入学定員100名、編入学定員10名)の収入を考えてみましょう。この大学の学費を100万円と仮定します(入学金やその他の収入、さらに退学等については今回は計算しません)

 100名×4年×100万+10名×2年×100万=4億2千万

さて、今までの入学定員超過率の指標であった1.3倍を超えないよう、入学定員を1.29倍としてみます。

 129名×4年×100万+10名×2年×100万=5億3千6百万

その差は1億です!また教育に関わる教育環境(例えば教員数)は、収容定員で考えていると増えた分はそのままプラスとなります。入学定員が1,000名であり、入学定員1.29倍の学生が入学したのであれば、10億は差額が出るという計算です。(私個人としては、増えた分は先生方の負担減や学生の教育向上の為に、手当てはすべきと考えています)

2.背景について

話題が少しそれました。さて何故入学定員管理について、このような議論になっているのでしょうか。キーワードとしては、少子高齢化社会・大学の増加・地方創生でしょう。(入学定員が5,000名の大規模大学が、1.29倍の学生を入学させた場合は、1,450名の学生が多く入学できます。しかし小規模中規模大学の入学定員は1,000名以下は普通であり、大規模大学が小規模大学のパイを食っているという視点もあります)

 

政府の「骨太の方針2014」が示した「50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持する」との目標があり、また「人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生できるよう」まち・ひと・しごと創生本部が設置されています。

<参考>

www.kantei.go.jp

さて、まち・ひと・しごと創生本部から出されている「まち・ひと・しごと創生総合戦略」には、地方への新しいひとの流れをつくるとして、地方大学等の活性化の戦略が記載されており、次の2点が示されています。

①知の拠点としての地方大学強化プラン

②地元学生定着促進プラン

①についてはCOCやCOC+で具体化されているかと考えられます。今回は②が大きく関係し、その為に必要な対応の一つとして、「大都市圏、なかんずく東京圏への学生集中の現状に鑑み、大都市圏、なかんずく東京圏の大学等における入学定員超過の適正化について、資源配分の在り方等を検討し、成案を得る」(まち・ひと・しごと創生総合戦略より抜粋)とされています。

この裏づけとしては規模別による定員充足率や地域別の動向の数字として、日本私立学校振興・. 共済事業団が行った平成 26 年度の. 「学校法人基礎調査」の結果「平成 26 (2014)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」に詳細に記載されており参考になります。

http://www.shigaku.go.jp/files/shigandoukou26.pdf

 

3.平均入学定員超過率を規定より超えるとデメリットがあるのか

それでは平均入学定員超過率を規定値を超えてしまうと大学にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。大きくは次の2つと考えられます。

①大学設置等の認可申請又は届出ができない

②補助金が減額あるいは不交付となる。

①は「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示の施行について(通知):文部科学省」にあるように、基準を満たせない場合は、新しく学部学科等を作りたい(設置したい)と考え書類を出しても審査を受けることができません。大学が学部学科等を新しく設置するケースとして、社会(時代)の要請やニースに合う事が前提ですが、募集がうまくいかない学部学科等を組み替えて新しい学部として出発したいという事もあるケースが多いです。よって、新しく学部学科が設置できない場合は、非常に厳しい経営状況に陥ってしまう危険性があります。複数学部ある大学でも、ある学部が規定値を超えていれば大学全体として見られますので、注意が必要です。(例えば教育系学部の入学者数が多くて、社会学系を地域系学部への改組を断念したという事もあるでしょう)大学が学部学科の認可申請又は届出をできるという事は非常に重要な事であるのです。

②は私立大学は、10数%ですが補助金をいただいています。入学定員超過率によって私立大学等計上補助金が不交付となる場合があります。詳細は下記をご参照下さい。

平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知):文部科学省

平成31年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)

なお、どちらも学部単位であることは注意が必要です。

また学生数は、資格課程でも検討が必要です。例えば看護の課程では40人1クラスで計算します。資格課程の情報もきちんと収集し検討が必要なのです。

4.職員としてどのように考えるべきか

職員として検討できる案件は、いくつかあります。例えば、①定員が充足していない学部学科の定員を一部変更して、募集がうまくいっている学部へ定員を振り返る、②そのために人事計画(特に教員の配置、分野に応じた人数や教授の数)を検討するなどです。関連としては過去に次のような事をまとめております。 

www.daigaku23.com

平たく言えば、学内の収容(入学)定員という資源をどのように再配分をする資料をつくる事でしょうか。 

ざっと簡単にまとめてみましたが、個人としては大学職員として押さえておかないとならない基本的な知識かと思っております。(募集担当者さえ分かっていない事もありました)最近は、高等教育政策の理解より以前に、情報収集能力や情報への感度を高める事が必要ではないでしょうか?

そう考えると、自分が高校で演劇をやっていた際に、顧問から「周囲にアンテナをはるように!」という言葉がいつも頭に浮かんできます。