業務をする中で、たまに部門・部局から、「こういう内容の研修をやるのだけど、名称は「○○大学FD・SD研修会」でいいのか」といった問い合わせを受ける事があります。
数年前だったら、参加対象で考え、FDは教員、SDは職員を対象としているイメージが定着しており、それぞれを対象とした内容であればいいのではと思っていました。
しかし、大学設置基準の改正によりSDが義務化され、その対象も変わってきています。
<参考記事>
大学設置基準から見るFDとSDの定義
上記の過去記事も少し前の内容なので、改めてFDとSDの整理を大学設置基準改正について整理してみます。
まずは下記の表を見て下さい。FDとSD、SDは対象が数年前と最近では異なる為、旧と新とつけて、区分しています。また用語の内容として主な定義や説明を引用しました。
FDは変わっていないのですが、SDについては赤字の箇所は大きく変わった所です。
また文章だと分かりにくいので、SDの対象者を軸としたイメージ図を作ってみました。
昔のSDは「職員」を対象者を軸とした定義となっています。一方、近年のSDは教育研究活動等の適切・効果的な運営をするために教職員を対象になっています。
SDの言葉の曖昧さ
ただSDという言葉は未だに曖昧ではないかと思っています。例えば大学職員の人事制度としての研修や職員対象の自己啓発支援(大学によってはSD予算という場合)もあり、単にSDという言葉は、①対象が誰なのか、②内容がどうなのかの共通認識を持っておかないと、「SDをどうしようか」といった議論がし難いのではないかと思います。
特に学校法人の部局にいる職員と話をするときは、対象や定義について、すり合わせをしてから話をする必要があるのではないかと思います。法人視点からだと人事制度とSDを結び付けている場合も少なくはありません。
話は戻りますが、SDの定義からすると、FD・SD研修会は「教員も職員を対象とした、教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組と当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため,その職員に必要な知識及び技能を習得させ,並びにその能力及び資質を向上させるための研修」と考える事もできます。
FD・SD研修会とする場合、もしかして対象者の観点からその名称をつけているのかもしれません。ただ、FDとSDの目的から考えると、いくつかの目的をもった長丁場の研修や内容だなという印象を持ってしまいます。個人的には、FDとSDは並べて使うのはあまり勧められないと思います。
また最近はSDの実施方針が補助金や認証評価などでも求められています。私学のみですが実態としては、平成29年度私立大学等改革総合支援事業(タイプ1~4) 設問毎・回答毎の該当件数を見ると選定校の中では96%が方針をたててSDをやっているようです。
また2019年度は経常費補助金の算定基礎となるため、教育の質に係る客観的な指標の調査としてFDやSDの参加率が100%である必要があります。(この設問や他の設問の合計点数などが加味され、補助金の増減率が+5%から-5%に変化します)
<参考>
教学マネジメント特別委員会での議論の曖昧さ
2018年から開催されている中央教育審議会大学分科会教学マネジメント特別委員会で検討されている「教学マネジメントに係る指針」で、第8回の委員会の議題としてFDやSDの高度化についての言及があります。ただここを見るとちょっと不思議な点があります。下記の表は第8回のFD・SDの高度化の部分をまとめたものです。
レベル | 対象 | 内容 | 備考 |
大学 | 学長や教学担当 副学長 |
【FD】 ・大学全体としての教育理念や「卒業認定・学位授与の 方針」をはじめとする三つの方針を適切に設定したり、見直したりするための研修会 ・他大学のマネジメント層との全学的な教学マネジメントの在り方に関する情報交換会、 ・経営学の専門家や企業経営者等を講師とした組織マネジメントに関する講演会 ・政策立案者を講師とした高等教育政策に関する講演会 |
・実施されているものの教員の参加状況は必ずしも十分とは言えないケースも多い。 ・FDとSDを一体化して実施することも考えられる |
学位プログラム | 学部長 | ・効果的な教育課程の編成・実施・評価等、学位プログラムレベルで求められるマネジメントに必要な知見やノウハウを提供するためのFD・SD | FD・SDは、学修成果の把握・可視化により得られた情報を共有し、明らかになった課題を分析し、これに対応するための改善方策を立てるなど、教学マネジメントのPDCAサイクルの中ではAに位置付けられる活動 |
教員としての経験が少ない新任の教員や実務経験のある教員 | 【FD】 ・自学の歴史や建学理念を含む大学コミュニティに関する 基礎情報 ・授業科目・教育課程編成に関する内容(シラバスにおいて標準的に期待される記載事項の書き方、履修指導方法等) ・成績評価基準の適切な運用(ルーブリックの活用方法、GPAの算出と活用等) ・学修成果の可視化(学生個人の学修成果の把握方法等)) |
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授業科目レベル | 学位プログラムにおける個々の授業科目を担当する個々の教職員 | ・授業科目・教育課程編成に関する内容(シラバスにおいて標準的に期待される記載事項の書き方、履修指導方法等) ・アクティブラーニングや、情報収集から課題解決まで主体的に取り組んでゆく探究型学習を促す授業方法 ・ICTの活用法、厳格で公平な成績評価方法といった学修者本位の教育を提供する上で必要となる知識・技能 |
第8回では大学・学部・授業レベルで分けて書いてありますが、大学レベルでは、FDとしているのに今までの法令解釈などからするとSDだろうというものもあります。どうも 文書案を作った人は、再び対象でFDかSDかを分けているのではないかとも思えてきます。
(例えばSDは「教学マネジメントの推進という観点においては、特に教務事項に密
接に関わる教務事務担当部署の職員を対象として行うことが必要である」と書かれているのと、「FDと同様に、事務組織のマネジメント層から実際の担当者までを対象とし、それぞれの役職や担当業務に即した最適な内容を最適な手法で提供することが求められる。」と書かれてはいます)
数年前はSDについての対象や意味が揺らいでいましたが、どうも教学マネジメント特別委員会の資料を見ると、FDの意味もよく分からなくなってきます。というより、段階レベルの考え方が違うからこのような感じになるのかなと思っています。
国が考えるレベルとはそのマネジメントをする人のレベルで意味するものは研修対象者であり、一方大学にいると大学レベルとは大学全体で共通の課題として行うFDであり研修内容であるといった齟齬がある気がします。
(2016月26日一部追記・修正、2018年8月19日一部追記・修正、2019年9月6日追記)