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大学職員だけではなく、社会にも理解いただきたい設置計画履行状況等調査とその結果のメモ

昨日、平成28年度の設置計画履行状況等調査の結果が発表されました。

設置計画履行状況等調査の結果等について(平成28年度):文部科学省

この件について既に日経新聞では、結果について記事が出ております。

www.nikkei.com

また、同業の方のブログでも、記事がありました。

hiroaki1214.hatenablog.com

 さて本記事では、平成28年度の設置計画履行状況等調査と結果について、個人が思う所をまとめてみました。

 

1・設置計画履行状況等調査とは?

 まず設置計画履行状況等調査とは何でしょうか?この解説をする前に、まず日本で、大学・学部・学科・研究科等を新しく作る時に、申請を行い、文部科学省から認可を受ける事が必要です(場合によっては届出のみという制度もあります)

大学の設置認可・届出制度:文部科学省

どういう時に申請が必要かというと次のリンク先のPDFをご覧ください。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/04/12/1368922_03.pdf

※認可を受け、開設を行うまでは非常に大変なのですが、ここでは本筋から離れるので省略します。

大学や学部等の設置認可は、大学の質保証の1つなのですが、これだけが大学教育の質保証に関する唯一のシステムではありません。大学設置基準、(大学や学部等の)設置認可申請、履行状況等調査、認証評価といったものが大学教育の質保証を保証していくというシステムが構築されています。

これらについて図になっているものが、大学教育部会(第40回)(H27.12月に実施)配付資料として分かりやすいものがあります。

<大学教育の質保証の全体図>

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/12/25/1365312_09.pdf

この図を見ると文部科学省がどのように大学の教育の質保証を行おうとし、設置計画履行状況の位置づけが分かるかと思います。

つまり、①大学設置基準は大学を設置するにあたって必要最低の基準であり、②大学等を作る際は設置認可で質保証を行い、③新しい学部は(基本として)完成年度まで設置計画履行状況調査で、設置認可でOKした質が担保されているかを確認(対象は新設の学部等のみ)、④認証評価(機関別評価)で定期的に大学全体の教育の質保証を確認していく流れになります。

※④の認証評価(機関別評価)と関連して、分野別評価とか、内部質保証とか自己点検評価は今回は省略します。

 

2.平成28年度の設置計画履行状況等調査の結果について

 毎年、設置計画履行状況等調査の結果が出ると、様々な媒体で記事にされますが、まずはこの調査は、上記で示したように対象は新設の大学・学部・学科・研究科のみという事です(指摘事項は一部例外があります。○○学部が新設だが、同一大学の××学部の入学者が少ない場合等は指摘を受けます)

 さて、今回の指摘ですが、是正意見として次の2つになります。

※是正意見とは、早急な是正が求められるか、一度同様の指摘を受けたけど対応が不十分な場合に早急に是正するようと指摘されるものになります。

 

①必修の専門科目、主要科目で専任教員が担当していない。

 この指摘ですが、根拠として大学を設置するにあたっての最低基準「大学設置基準」に次の記載があります。

第十条  大学は、教育上主要と認める授業科目(以下「主要授業科目」という。)については原則として専任の教授又は准教授に、主要授業科目以外の授業科目についてはなるべく専任の教授、准教授、講師又は助教(第十三条、第四十六条第一項及び第五十五条において「教授等」という。)に担当させるものとする。

今回はこの箇所についての指摘ですね。専任教員が担当していないと指摘されていますが、設置基準では、原則として専任の教授又は准教授が担当する事が必要です。つまり今回は大学設置基準に対応していないという指摘という事です。

 

②入学定員の大幅な受け入れ

 まず入学定員を超えて大幅に超えて受け入れるという事についてを考えなければなりません。大学設置基準では、設定された定員に応じて、校地・校舎・教員数等の必要最低の数値が決められています。つまり、定員に応じ、教育の質保証に必要な設備等はここまで必要ですと示しているとも言えます。この定員を超えて学生を入学させてしまうことは、その大学は教育の質に対して担保できるのかといった疑義になるとも言えます。

※ここでは入学定員と収容定員をまとめて、定員と標記しました。

なお、今回の指摘は通信教育課程ですので、大学通信教育設置基準が適用されます。

 

 また改善を強く求める改善意見は、次のようなものがあります。

①入学定員超過

②定員充足率の平均が0.7倍未満

③教員が、定年規定に定める退職年齢を超えた人が多い

④教員の辞退が多い、引き継ぎが充分に出来ていない

⑤付属病院の設備計画の遅れ

⑥専門基礎科目で配当年次が複数年である、早期に修得すべき内容でない、科目の順次性が担保されていない、履修モデルと実際に齟齬がある

⑦担当科目数が著しく多い専任教員がいる

⑧ある課程の学生の選抜方法や選抜基準が曖昧

⑨設置計画時に予定していた助手が配置されていない

⑩授業改善やハラスメント防止のため、学生からの意見を聞く仕組みの構築

⑪設置計画履行状況報告書に多数の誤りがある

⑫履修モデル及び履修指導に関する指摘

⑬一部の科目にシラバスがない

 ①・②は学生定員に関わる事ですので、学生が多くいる場合は次年度は入学者数をセーブしないといけないですね。また学生が集まっていない場合は、例えば、定員は現状のままで何らかのてこ入れをするや、定員数を減らすといった事が考えられます(毎回、定員を減らして大学の規模がかなり小さくなってしまった大学もあります)

 ③について、大学当事者としてはかなり難しい問題であると感じています。設置認可時には教員が担当する科目を持てるかどうか教育研究業績の審査があります。また教職や資格関連と深く関連した学科の場合、資格課程について教員の教育研究業績審査があります。(例えば教育学部を作る場合は、学部を作る為の教員審査と教職課程の教員審査がダブルであります)この審査が通る人となると、業績を持っている人⇒年配の先生方に寄ってしまう事も少なくないのです。

 ⑥以降については、教学マネジメントやカリキュラムマネジメントの問題でもあるのかなと思います。

 

3.最後に

 この結果について、担当者だけが知っていても、改善が難しい事案というものがかなりあるかと思います。例えば私学の場合、学生数の定員超過は経営と直結しますので法人本部との調整・理解が必要だったり、カリキュラムに関する問題は学部長や学科長だけではなく、組織として解決する必要がある問題だったりします。

 この結果で指摘された大学は、大学全体での共有化と対応をどうするかを組織として検討しなければならないと思います。また職員の役割として、単に書類を作成するだけではなく、政策、法令、所属機関の現状を客観的に把握、他大学の状況を把握し、違う事であれば提言できたり修正できるような力量が、特に専任職員には必要なのだと感じています。

 

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