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東京23区内の大学の定員抑制の概要と所管~地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議による最終報告書から~

 地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議による最終報告書「地方における若者の修学・就業の促進に向けて-地方創生に資する大学改革- 」が公表されました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/daigaku_yuushikishakaigi/h29-12-08_daigaku_saishuuhoukoku.pdf

 

 内容は、地方創生に資する大学改革の方向性など多岐にわたるのですが、今回は「東京の大学の定員抑制」について、触れていきます。

 

 23区内の定員抑制、「つまり定員増の申請は受け付けないよ!」というのが出たのはだいぶ前の話のような気がしますが、最近の事です。

そもそも私立大学の収容定員に係る学則変更の認可申請(つまり定員増の申請)は、6月末認可のために3月末に出すものと、8月末認可の為に6月半ばに出す2つの締切(受付期間)がありました。

 

 大学や学部等の設置をした事ある人なら分かるかと思いますが、このような手続きはとにかく早めにしたほうがいいことは言うまでもありません。しかし、定員増だと設置基準や教育の質の観点から校地校舎を増やしたり、教員を増やす必要もある場合があります。また大学内や法人内の手続きに時間がかかる場合もあるでしょう。

 

 そこで大学によっては6月申請で8月末なら入試等にも間に合うだろうと思っている所もあったのではないでしょうか。しかし出てきたのは次のパブリックコメントです。

search.e-gov.go.jp

内容は次の通りです。

平成30年度の私立大学の収容定員(東京23区に所在する学部等に係るものに限る。)を増加する学則の変更の認可を受けようとする場合の申請期間を、平成29年度の10月1日から10月30日までとするため、所要の改正を行うものである。

  つまり「23区内にある学部等の定員を増やす場合は6月でなくて10月まで待ってね」という事になった訳です。大学としては寝耳に水の所もあったと思います。定員を増やすために建物や教員採用も動いていた(定員増加分の収入を見積もっていた)のに、ちゃぶ台をひっくり返されては大損になってしまうかもしれません。

そのあとで、いくつか条件として、、校舎等の施設又は設備の整備を行うなど必要な投資を行う場合で、さらに大学の設置、学部等の設置、収容定員増について機関決定している場合に限り、例外事項と発表がされました。

 

 さて、今回の報告書は23区内の定員抑制について整理し、抑制の例外についても述べたものとなっています。要点だけまとめておきます。

①抑制について

・学部学科の所在地の移転等も含めて、原則として定員増は認めない。

・対象は、国立・公立・私立の大学(短期大学を含む)

東京の国際化都市に対応する場合、若者の東京圏への転入増加につながらないものなどは抑制対象外

 

②抑制の例外

・大学院(地方から若者が流入する割合が低いと考えられるため)

・専門職大学は、実践的な職業教育を行い、社会人等多様な学生を受け入れる新たな学校種であるため、一定の期間(例えば5年)新設を認めることも考えられる。

・収容定員の増加を伴わない学部学科のスクラップ・アンド・ビルド

短大→4大、大学やその一部の統合など、23区内の定員数が変わらない場合は抑制の例外

・留学生の受入(例えば、東京国際大学の池袋キャンパスでしょうか?)

・社会人、特にリカレント教育について

・通信教育

・事前に校舎等の施設や設備の投資について機関決定をし、公表している場合

・学年によるキャンパス分割(1・2年は都内、3・4年は地方)

 

③大学の地方移転について

・サテライトキャンパスの設置(例えば、東京理科大学の隔離施設長万部キャンパスなどが挙げられている)

・サテライトキャンパスがある学部を設置する場合は地方の大学とみなす

・サテライトキャンパスの社会インフラ(廃校舎)の有効活用

 

 ①については、今まで通りですの何もありません。

 ②ですが、気になる点が2つあります。1つめは、学校法人や大学の合併や一部買収についてです。今回の定員抑制によって、23区内の大学の定員枠という財産の価値は大学経営側サイドからすると非常に高くなったと言えます。

 23区内で経営的に厳しい大学の有無や実体はわかりませんが、施設や先生方より定員枠は手に入りにくくなったのです(お金を積めばどうにかなるものではありませんし)。例えば、学部を一部吸収、そこにいる教職員は任期付で再雇用、吸収した定員を別学部等へ改組といった事も考えられます。

 続いてリカレント教育についてです。この報告書ではP10にリカレント教育は、社会人向け大学院、先進的な知識・技能を学ぶことができる履修証明プログラム、一般教養等に関する公開講座と例が挙げられています。

 自身もリカレント教育を受けてきた立場なので賛成ではありますし、大学の社会貢献から考えるとやる意義も分からなくはありません。しかしリカレント教育は、実は大学にかなりの負担をしいるのではと思っています。大学院然り、履修証明プログラムを開発し運営するのもコストがかかります。

 これは純粋にお金だけではなく、教職員への負担もあります。中小規模の私立大学は、あまり範囲を広げにくい部分なのではと思っています。(大学は金じゃないとは言っても、社会や企業に還元して学生に還元できない取組みについては慎重に検討する必要があると思っています。)

 ③ですが、サテライトキャンパスを新たに行う大学はあるのでしょうか?教育的価値はともかく、経営的メリットはまったく分かりません。むしろ、報告書に東京理解大学の長万部キャンパスが出ていましたが、あれだけを優良事例にしてもちょっと違うような気がします。一言にすると「現実性がなさすぎます」

 

 簡単ではありますが、ざっとまとめてみました。大規模私学はともかく、中小私学については、定員超過抑制や消費税アップ、そして学費もあげられないと経営が徐々に厳しくなります。ここ数年は専門職大学の設置や高等教育が大きく動くのではないでしょうか。